12 Important Works12研究物語

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緑内障統合的分子診断法の確立と実証

ゲノム医学を緑内障の診断法に応用
異分野交流によって生まれた新しい発想が
大きな研究成果につながった

研究担当者

  • 田代 啓

    ゲノム医科学
    教授

  • 森 和彦

    講師

  • 池田 陽子

    客員講師

緑内障を早期に正確に発見する方法は何か?

 緑内障は、我が国における失明原因の第1位を占めており、40歳以上の日本人における緑内障有病率は、5.0%、つまり20 人に1 人の割合で緑内障の患者さんがいるという状況で、緑内障は日本の社会において大きな問題として考えられています。

 この研究チームでは、緑内障患者ならびに健常者より採血し、ゲノムDNA/RNA/ タンパク質を抽出、バリアント解析、遺伝子発現パターン解析、発現タンパク質パターン解析を行い、統合的な分子診断法の確立と実証を行い、その成果を緑内障の診断と治療に役立てようというものです。

 「2004 年に京都府立医大にゲノム医科学講座が新設され、田代 啓先生が着任され、着任後間もなく、眼科医局セミナーで田代先生のエイズに関する遺伝子研究の講演を聞きました。それがヒントになり、緑内障でも同じように遺伝子研究ができるのではないかと考えたのが研究をスタートするきっかけになりました」と池田陽子客員講師は語ります。

ゲノム医学の第一人者との絶妙な「化学反応」

 一方の田代 啓先生も「私が京都府立医科大学の教授着任後すぐに、木下先生に眼科でのセミナーを開催していただいて、聴講して下さった池田先生や森先生と出会ったことが、この研究のスタートになりました」と話します。

 新しい優秀な研究者の着眼点や発想が、既存の概念を超えて、新たな研究へのアイデアとエネルギーを生み出したのです。これも木下先生の目論見のうち?だったのでしょうね。

資金集め、分析、データ管理…すべてに苦労

 研究をスタートして苦労したことについて森和彦講師は「私の担当は、ゲノム情報と臨床情報を組み合わせて解析するための緑内障患者臨床データベースを構築することでした。ちょうどその頃、紙カルテから電子カルテへの移行と外来・医局の移転とが重なったため、臨床データの散逸を防ぐこと、ならびに電子カルテからのデータ抽出のためのメーカーとの折衝にとても苦労しました」と話します。

 池田陽子先生は「莫大な研究資金の調達が難しく、自分で競争的資金を得るように言われたことが大変でした。結局は木下先生が資金提供してくださる企業を見つけてくださいました。また正常対照者のリクルートが軌道に乗らず、検査する環境が整っても参加する正常者がいない日が続いたことも辛かったですね」と語ります。

 田代 啓先生は「毎日血液サンプルを処理して実験することは、大変な苦労でしたが、その甲斐あって正常眼圧緑内障GWAS が、世界1位でできました。それに、池田先生、森先生と出会い、一緒に研究ができたことも非常にうれしいことです。指導が的確で、勉強熱心な木下先生の姿勢にも感動しました。これからも研究を続けて、緑内障の診断法を確立させ、世の中の役に立つように進めて参ります」と話します。

論文発表がゴールではなく患者さんへの還元を第一に

 「平成19~23年度JST 産学共同シーズイノベーション化事業育成ステージ、平成20~22 年度/ 平成24~26 年度厚労科研費などの大型競争的資金を獲得でき、世界に先駆けて正常眼圧緑内障に関連する一塩基多型を報告したことが大きな成果です。また企業ならびに海外施設との共同研究を開始することができ、いくつか成果が挙がって来ていることも、研究を続ける喜びになります。木下先生からは、企業とのやりとりの仕方や、如何にウィンウィンの関係を構築していくかといったことを学びました。緑内障発症のみならず進行における遺伝要因と環境要因の関与が明らかとなり、発症前のリスク判定ができるのみならず、緑内障の先制医療に繋がる可能性に向かって研究を進めます」。(森和彦先生)。 

 「世界初の原発開放隅角緑内障の全ゲノム解析の結果を、米国科学アカデミー紀要に発表できたこと。その後正常眼圧緑内障に関わるバリアントを発見できたこと。共同研究を行っている落屑緑内障のバリアントの研究が、本年ネイチャージェネティクスにアクセプトされたことが、大きな成果になりました。一方で木下先生からは、ただの論文発表のためではなく患者さんに実際に還元していく研究が必要であるという信念が大事であることを学ばせていただきました。木下先生に教えて頂いた通り、わずかの血液でこれまでにない正確な信頼性のある緑内障の発症にかかわる遺伝子診断チップを作成し、検診でルーチンに使用してもらえるようにすること。そして緑内障の進行判定および緑内障薬剤の副作用や効果を遺伝子によって判定し、その人に合ったテーラーメード医療を行っていけるようにすること。また遺伝子を用いた緑内障の新規薬剤を開発することを目標にがんばっていきます」。(池田陽子先生)


【田代 啓先生とゲノム医科学教室のメンバー】