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12 Important Works12研究物語

FILE8

高速・高精度瞬目計測技術を応用した脳神経系疾患スクリーニング

瞬目解析を脳神経の病気の診断に
応用するというオリジナルな発想を原動力に

研究担当者

  • 渡辺 彰英

    助教

  • 中村 芳子

    オリックス株式会社人事部
    グループ健康推進室
    産業医

瞬目をパーキンソン病の診断に役立てる

 この研究チームのテーマについて渡辺彰英先生は「高速瞬目解析装置を用いて測定した瞬目データを解析し、パーキンソン病をはじめとする脳神経疾患患者と健常者で比較して違いを発見することです。そして、その解析したデータを用いて、スクリーニングへの応用を目指すことを目標にしています」と説明します。パーキンソン病は、脳の黒質にある神経細胞が変性し、そこで作られる「ドパミン」という神経伝達物質が減少することで、運動指令がうまく伝達されずに、震えや歩行障害などの運動症状や、不眠、うつなどの非運動症状が生じる疾患で、瞬目も補助的診断に用いられています。神経学的所見では、患者さんに目を左右上下に動かしてもらったり、瞬目の観察も要素に含まれてはいますが、明確な基準値などは規定されていません。

 「平成元年から、眼精疲労の他覚的検査として『調節・瞳孔解析装置(ニデック社製 AR3-SV6)』を用いて、調節波形、調節安静位及び瞳孔運動の計測と解析を行ってきました。平成18 年に明治製菓との共同研究が始まり『目の生理的な疲労』の指標とするために、『調節安静位』を超高精度に計測するという課題をいただきました。そのために行ったのが、測定した調節の時系列データから『瞬目により閉瞼している部分のデータ除去を除去する』という作業です。測定時の動画を見ながら、瞬目の開始と終了時間をチェックしていきました。一回の検査で5~20回位の瞬目が入ってきますので、合計で数百回の瞬目を観察しました。その時『閉瞼は時間が短く、開瞼は時間が長い』ことに気づき『上眼瞼の閉瞼速度は開瞼速度より速いようだ』と感じたのが、新しい瞬目解析装置の開発に繋がりました」と中村芳子先生は説明します。

世界一の精度をもつ高速瞬目解析装置づくりへ

 渡辺彰英先生は「木下教授にあるとき呼ばれ『浜松ホトニクス社との共同研究で、瞳孔解析装置を開発したが、どうも瞳孔の測定解析は難しいことがわかった。しかし同じその装置を用いて瞬目が詳細に解析でき、自発性瞬目でも深いもの、浅いもの、いったん浅いところから深くなるものなど、様々な瞬目の種類があることがわかった。瞬目は中枢神経の異常を反映すると思っている。是非この研究を浜松ホトニクス社とはじめて欲しい』という木下教授の依頼があり、それがきっかけとなり、装置の開発と応用の研究が始まりました」ということです。その後、渡辺彰英先生と中村芳子先生は、浜松ホトニクス社の技術職の方々と協力し、簡便かつ詳細に瞬目現象を観察・記述することができる装置(瞬目高速解析装置)を開発しました。

患者さんの膨大なデータの解析に苦労

 研究を進めていくなかで苦労したことは「大学院生である木村直子先生、その後を引き継いだ山中行人先生を中心に、同志社大学の大前まどか、岡雄太郎、服部裕基といった歴代の眼形成グループの研究者が何年もかけて、若年や高齢の健常者やパーキンソン病を中心とした中枢 神経疾患の患者さんの瞬目を測定し、解析を続けてきました。測定した瞬目データの解析を手動で動画を見ながら行うのですが、データの量が膨大にあり、その解析に苦労しました。何度も木下教授、浜松ホトニクス社の豊田晴義さん、鈴木一隆さん、袴田直俊さん、神経内科の先生方とミーティングを行い、瞬目解析結果の解釈と、研究の方向性について検討してきました。途中パーキンソン病に特徴的と思われる3種類の波形は、健常者ではほとんど見受けられないという結果を得ていましたが、数が増えるにつれて、健常者でもある一定の頻度で認めることがわかり、パーキンソン病を健常者からスクリーニングするための条件設定を行うことが難しいと思う時期もありましたが、同志社大学の服部くんが、得点法によるスクリーニング法を開発し、感度・特異度ともに高いスクリーニング条件を得ることができました」(渡辺彰英先生)。

その努力の結果、浜松ホトニクス社と京都府立医科大学眼科学教室の共同研究として、JST のA-step フィージビリティースタディーおよびハイリスク挑戦タイプの2回の研究費獲得ができたことが大きな喜びに感じたそうです。

 また、パーキンソン病と健常者の瞬目データに基づいた得点法による未解析の健常者とパーキンソン病患者のブラインド解析も、80%以上の確率でパーキンソン病患者をスクリーニングでき、現実的なスクリーニングに応用できそうとわかったときも、パーキンソン病患者さんの役に立てる手応えを感じ、喜びもひとしおだったそうです。

眼科からという視点でなく大きな視点から

 

 中村先生は、「上眼瞼の閉瞼速度と開瞼速度が違うようです」と伝えた時に、木下先生が「面白いね」と言って下さったことが、一番印象に残っているそうです。「そして、浜松ホトニクス社の技術を借りて、実際に計測できる装置ができ、神経眼科(第26 巻)の特集「眼瞼と神経眼科」に原稿を書かせていただけたことを嬉しく思っています」と当時を振り返って喜びを語って下さった中村先生。

 「大学院生や同志社大学の学生たちは、膨大なデータを解析していく中で途方にくれた時もありましたが、『瞬目解析で脳の病気をみつけよう』という木下先生の素晴らしいオリジナルなアイデアを現実のものとするため、世界一の精度をもつ高速瞬目解析装置を用いて、我々が 新しい早期発見法を生み出すんだという思いでみんなで頑張ってきました。木下教授からは常に『眼科からという限られた視点ではなく、大きな視点から研究をすすめていくように』とアドバイスをいただきました。今後の目標は、実際に人間ドックなどでスクリーニングを行い、パーキンソン病の早期発見・早期治療につなげていくことです」と抱負を語る渡辺先生。

 「木下先生には平成元年からご指導を受けています。先生は角膜がご専門と思っていたのですが、調節や瞳孔運動と言った畑違いの分野にも広く関心を持っておられ、『面白い』と感じたら、熱意を持って係っていかれます。その視野の広さとパワーにいつも感心していました。調節、瞳孔と言えば眼科領域ではマイナーな分野と思うのですが、大切に育んでおられること自体が私には驚きです。この研究と直接関係は無いかもしれませんが、一番印象に残っている先生の言葉は『願えば叶う』。20年前に先生が某先生の送別会でおっしゃった言葉ですが、私自身の座右の銘にしています。今後は神経内科領域の先生方と連携し、瞬目検査の応用領域を広げていただければ幸いです」(中村芳子先生)。