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12 Important Works12研究物語

FILE9

加齢黄斑変性における免疫・代謝ネットワークの恒常性破綻の最適医療技術の創出

加齢黄斑変性による視機能低下を完全に
根治するという大きな目標に向かって

研究担当者

  • 米田 一仁

    助教

  • 山田 潤

    明治国際医療大学
    眼科教授

  • 畑中 宏樹

    京都府立医科大学附属北部医療センター
    眼科助教 医長

  • 羽室 淳爾

    特任教授

加齢黄斑変性に苦しむたくさんの患者さんを救いたい!

 研究をスタートしたきっかけについて米田一仁先生は「以前から臨床的に問題となっている加齢黄斑変性をこれまでの概念を覆すほどの極早期でとらえて、極早期に介入し治療することが必要な疾患と考え、羽室先生の病態に対する深い考察に感銘を受け、研究を開始しました。研究の中でも臨床検体を用いた部分の統括、計画立案により全体の方向性を決定しています」と語ります。

 畑中宏樹先生は「網膜患者さんの手術や外来を行う中で、一線を越え手が出せない病態に度々遭遇し、『何とかならないか』という思いを強く持ったため」と語ります。畑中宏樹先生はグループの中で、加齢黄斑変性における免疫学的、分子生物学的観点からその首座となってい る網膜色素上皮細胞の恒常性破綻のメカニズム解明とその制御のための新たな治療法の開発、加齢黄斑変性に伴う網膜色素上皮細胞の線維性変化の抑制方法の開発と治療への応用などを担当しています。

 山田潤先生は「角膜移植の移植免疫から始まり、羽室淳爾先生との巡り会い、アレルギー抑制、炎症抑制を経て、生活習慣病として慢性炎症として捉えたAMD を抑制できないかということにつながりました。グループ研究を立ち上げるところから着手して実施にも深くかかわっています」と説明します。

 若手研究者らを大いに刺激した羽室淳爾先生は「網膜色素上皮細胞(RPE)の機能を、①マクロフアージとの間に形成される炎症増悪経路の視点、②補体活性化抑制因子( 補体活性化因子C3, C5, CFB, 補体活性化抑制因子CFH,CD46, CD55, CD59, Clusterin並びにCTRP6, CTRP5 など)産生破綻の視点、③酸化脂質など生活習慣病に係る代謝産物によるRPE 細胞変性の視点、④ RPE 細胞の線維化におけるTGFb+TNFa によるマトリックスプロテアーゼ(MMP)発現誘導の視点から解析し、可溶性miRNA やDNA の脱アセチル化を阻害する新規HDAC 阻害剤の医薬としての有用性を見出しています。ヒトRPE からの危険感知シグナルとして 産生される可溶性miR の分子種を同定するとともに産生される炎症性サイトカインとの対応付けを実施し、危険感知応答の新側面を明らかにしました。⑤①の経路の阻害のためにRPE の炎症性サイトカイン産生を阻害する新規化合物やマクロファージに選択的にアポトーシスを誘導する化合物の併用効果を検討しています。⑥新規な病態解析手法〔近赤外自 家蛍光解析〕を考案して、後眼部炎症性疾患と関連付けるべく臨床検体の活用によるPOC 確立を介しています。若い先生方とグループ討論で研究を進めています」と説明します。

相談相手がいない、マウスモデルがない…新たな道を切り開く苦労

 研究を進める中で困難だったことについて畑中宏樹先生は「カニクイザルの網膜色素上皮細胞の初代培養作成とその細胞を用いた実験系、評価系の確立。府立医大眼科での網膜の基礎研究が、これまであまり行われておらず相談相手が少なかったことです」と語ります。

 山田潤先生は「細胞を用いた実験によるデータはでるものの、結果を明瞭に判定できる臨床研究やマウスモデルに適切な物が無いこと。念入りな積み重ねを必要としたことです」。

 羽室淳爾先生は「本教室に網膜基礎研究の要となる基盤技術が存在しないこと、更に、免疫組織化学的研究機能がまだ整備途上であること。臨床研究は抜きん出ています。臨床検体の入手が海外研究機関に比較し極端に困難。連携プレーに至るまでの苦しみです。ここが整備されると飛躍的に加速されるでしょう」と話します。

木を見て、森を見ずになるな!

 米田一仁先生は「本当に数多くの患者さんが加齢黄斑変性で苦しんでおり、いかに極早期の病態をとらえて介入治療することが重要かを感じており、そのこと自体がモチベーションにつながっています。研究を通じて、木下先生の眼科のことにとらわれない非常に幅広い視野と、研究全体のマネージメントに非常に感銘を受けました。まさに『木を見て、森を見ず』になりがちな時に、とても参考になるアドバイスを数多くいただくことができました」と振り返ります。

 山田潤先生は「研究を進める中で、マクロファージとRPEとにIL-6とTNF-αとを介する増悪回路があるとあたりをつけた後、糖尿病にも同様の回路が最新の話題になっていることを知り、感動しました。木下先生は、網膜領域に関してもそうとうお詳しかったことに驚きました。私 たちの研究成果によって、安全・安価な予防治療剤、効果的な進行予防剤を含む予防療法が世の役に立つ日を夢見ています」と話します。

意欲と情熱があれば道は開ける

 畑中先生は「オリジナルの方法で作成した初代培養細胞がシャーレの中で六角形細胞となりシート状に増えているのを初めてみたとき感動しました。また注目していた薬剤による線維性変化の抑制作用を初めて確認できたときにも、研究の面白さを実感しました。木下先生には、 基礎研究を行っている時も常に患者さんのことを考え臨床にどのように応用していくのかという視点を失わないことを学びました。網膜色素上皮細胞の線維性変化を抑制する治療法を開発し加齢黄斑変性のみならずその他多くの眼内増殖性疾患の改善、予防につなげていこうと思います」と抱負を語ってくれました。

 「まだ、始まったばかりの研究であり、具体的にどのように患者さんに還元できるかは定まっていないが、この研究テーマ自体は必ず必要であり、今後も継続していく必要のある内容であると思っている。実現した際は、加齢黄斑変性による視機能低下を完全に根治したいと考えています」(米田一仁先生)。

 最後に羽室淳爾先生が、後輩の研究者が見習うべき木下先生の研究姿勢について「概念にとらわれない。臨床実態に即して思考され、臨床への還元意識を明確にする。環境は作り上げていく。障害は乗り越えていく。意欲と情熱があれば道は開ける。独りで閉じこもらず国内外に広く行動を広げる。環境を与えられたらやるのではない、やるから環境を切り拓かれ大きく飛躍できる」と要点をまとめてくださいました。