
ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell: ヒトES 細胞)やヒト人工多能性幹細胞(human induced pluripotent stem cell:ヒトiPS 細胞)は多分化能と無限増殖能を有した特殊な幹細胞で、細胞移植治療のための細胞ソースや創薬ツールとして注目を集め活発に研究が進められています。
「私は理化学研究所CDB の笹井芳樹先生のご指導の下、2004年からヒトES細胞研究に従事してきました。その中の成果としては、2006年にヒトES 細胞をヒト由来材料(ヒト羊膜マトリックス)を培養基質として無血清培地中で培養して、パーキンソン病の移植治療に有用なドーパミン神経細胞や加齢黄斑変性症に対する治療材料となる可能性のある 網膜色素上皮細胞を産生することに成功いたしました。また2007年に低分子化合物である選択的ROCK 阻害剤(Y-27632)がヒトES細胞において分散の際に生じるアポトーシスを抑制することを見出し、この化合物で処理することにより、ヒトES 細胞の大量培養を可能にしました。またマウスES 細胞で確立した無血清浮遊培養法にこの化合物を添加することによりヒトES 細胞から大脳神経前駆細胞を高効率に産生することに成功しました。現在では私は理化学研究所CDBの客員主幹研究員として、ヒトES細胞の自己組織化技術をベースにした研究を継続しています」と話すのは、上野盛夫先生。
さらに上野先生らは、2012年からは京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究を開始します。「同研究所の戸口田淳也教授・池谷真准教授のご指導のもと、中井義典先生が、ヒトiPS細胞を用いた神経堤細胞の分化誘導研究に従事いたしました。その成果として2014年には低分子化合物を添加した無血清培地でヒトiPS細胞およびES細胞から再現性よく高効率に神経堤細胞を誘導する方法を確立し、そこから化学合成培地を用いて間葉系間質細胞を誘導する方法を確立しました。さらに本誘導法で作成した神経堤細胞から角膜内皮細胞を産生することに成功しています。2014年には発生生物学およびiPS 細胞研究の専門家である佐藤貴彦先生が本学眼科学教室に着任され、遺伝子・細胞操作を駆使したヒトES細胞/ iPS細胞利用基盤技術の開発を進めています」とこの研究プロジェクトの流れを説明する上野盛夫先生。