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12 Important Works12研究物語

FILE10

遺伝子・細胞操作を駆使したヒトES細胞/ iPS細胞利用基盤技術の開発

ヒト幹細胞から眼組織分化誘導法を研究し
多様な疾患の解明と創薬に結び付けたい

研究担当者

  • 上野 盛夫

    助教

  • 中井 義典

    病院助教

  • 佐藤 貴彦

    特任助教

理研やCiRA への国内留学が道を拓く

 ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell: ヒトES 細胞)やヒト人工多能性幹細胞(human induced pluripotent stem cell:ヒトiPS 細胞)は多分化能と無限増殖能を有した特殊な幹細胞で、細胞移植治療のための細胞ソースや創薬ツールとして注目を集め活発に研究が進められています。

 「私は理化学研究所CDB の笹井芳樹先生のご指導の下、2004年からヒトES細胞研究に従事してきました。その中の成果としては、2006年にヒトES 細胞をヒト由来材料(ヒト羊膜マトリックス)を培養基質として無血清培地中で培養して、パーキンソン病の移植治療に有用なドーパミン神経細胞や加齢黄斑変性症に対する治療材料となる可能性のある 網膜色素上皮細胞を産生することに成功いたしました。また2007年に低分子化合物である選択的ROCK 阻害剤(Y-27632)がヒトES細胞において分散の際に生じるアポトーシスを抑制することを見出し、この化合物で処理することにより、ヒトES 細胞の大量培養を可能にしました。またマウスES 細胞で確立した無血清浮遊培養法にこの化合物を添加することによりヒトES 細胞から大脳神経前駆細胞を高効率に産生することに成功しました。現在では私は理化学研究所CDBの客員主幹研究員として、ヒトES細胞の自己組織化技術をベースにした研究を継続しています」と話すのは、上野盛夫先生。

 さらに上野先生らは、2012年からは京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究を開始します。「同研究所の戸口田淳也教授・池谷真准教授のご指導のもと、中井義典先生が、ヒトiPS細胞を用いた神経堤細胞の分化誘導研究に従事いたしました。その成果として2014年には低分子化合物を添加した無血清培地でヒトiPS細胞およびES細胞から再現性よく高効率に神経堤細胞を誘導する方法を確立し、そこから化学合成培地を用いて間葉系間質細胞を誘導する方法を確立しました。さらに本誘導法で作成した神経堤細胞から角膜内皮細胞を産生することに成功しています。2014年には発生生物学およびiPS 細胞研究の専門家である佐藤貴彦先生が本学眼科学教室に着任され、遺伝子・細胞操作を駆使したヒトES細胞/ iPS細胞利用基盤技術の開発を進めています」とこの研究プロジェクトの流れを説明する上野盛夫先生。

ヒト幹細胞研究の礎を府立医大に築く

 上野先生と同じように、理化学研究所CDB、京都大学iPS 細胞研究所(CiRA)に国内留学した中井義典先生は「大学院生の時に、理化学研究所CDB に国内留学して、笹井芳樹先生のご指導の下、2004年からヒトES細胞研究に従事したのが始まりです。神戸理化学研究所CDBでの上野先生の研究継続(角膜上皮細胞)と、京都大学iPS細胞研究所と の共同研究(神経堤細胞、角膜内皮細胞)が、この研究チームに参加するきっかけになりました。最終的には2009年AAO期間中に木下先生から携帯電話でご指示があって、本格的に研究に参加することになりました」と説明します。

 「木下教授から『府立医大におけるヒト幹細胞研究の礎を作ってほしい』と言われたことが、京都大学iPS 細胞研究所(CiRA)から、京都府立医科大学に移った大きなきっかけになり、今でも強く印象に残っています。私の研究プロジェクトの中での役割は、ヒトiPS細胞を用い た骨格筋組織幹細胞への人為的誘導法開発です」と説明するのは佐藤貴彦特任助教。

1 年以上もいい結果が出ず…

 「ヒト由来材料(ヒト羊膜マトリックス)を培養基質とした無血清培養法の開発を開始した当初は、1 年以上も良い結果が出ず、精神的に辛い日々でした。

 ROCK 阻害剤を用いた培養法を開発していた際には、木曜日~日曜日は理化学研究所CDB(神戸)で実験を行い、月曜日~水曜日は国立長寿医療研究センターにて眼科医として勤務していました。若かったですが、体力的に非常につらい日々でした。また2014年8月に笹井芳樹先生がお亡くなりになられたことは最もつらい出来事です」と上野盛夫先 生は胸の内を静かに語ります。

 中井義典先生は「ど素人の状態で理研やCiRA(サイラ)に飛び込んで行ったことは、私自身が人見知りなので最初だけちょっと辛かったです。しかし最先端の研究を間近に見られ、新しい友人ができ、少しでも携わることができたことは貴重な経験となりました。木下先生はいつ も何でもすでによくご存じであることにいつも驚かされます。」と話します。

新しい研究の門を叩き 人間関係を築く

 「理化学研究所CDBでの研究生活は、素晴らしい仲間と刺激し合いながら基礎研究に没頭した素晴らしい日々でした。現在でも理化学研究所CDBでの研究を継続させて頂いていることには非常に感謝しておりますし、またその当時の仲間(池谷真先生、佐藤貴彦先生)と新たな共同研究を行っていることは無上の喜びです。そのチャンスを与えて下さったのは、私が大学院生の時に、理化学研究所CDBに国内留学するようにご助言くださった木下先生です。新しい世界への扉を開いてくださったと感謝しております」。(上野盛夫先生)

今後の展開について

 「本プロジェクトの担当責任者として共同研究者と連携して本プロジェクトを推進しています。現在は自己組織化技術を用いた眼組織の分化誘導研究に取り組んでいます。当教室で臨床実績のある角膜再生医療と融合して、新生代の治療を創出したいと考えております」と上野盛夫先生。

 「世の中の期待の大きさを感じているので、何とかして最初の一歩を踏み出すことができればと思っています」。(佐藤貴彦先生)

 「ヒト多能性幹細胞から眼組織細胞への分化誘導方法の解明は、眼組織の発生に密に関連しており、再生医療だけでなく、各疾患での病因の解明や創薬への応用など、幅広い可能性があると考えられます」(中井義典先生)と、それぞれの抱負を語ってくださいました。