12 Important Works12研究物語

FILE11

涙液層の非侵襲的評価法の開発

20 年以上に及ぶ涙液研究を支えた言葉は
「続ければ本物になる、本物は続く」だった

研究担当者

  • 横井 則彦

    准教授

  • 小室 青

    客員講師
    四条烏丸眼科 小室クリニック 院長

眼の表面を乾燥から守る「涙液層」

 眼瞼が開いているときに、乾燥しないように眼の表面を覆う“Tear Film”、日本語で「涙液層」。その状態を調べることで、ドライアイをはじめとする眼の表面に生じる様々な疾患の診断や治療に役立てようと、横井則彦先生、小室 青先生が中心にスタートしたのが「涙液層の非侵襲的評価法の開発」でした。

 「開瞼に伴う角膜上の涙液油層の動態を観察・解析して、ドライアイを初めとする眼表面疾患の診断、治療に役立てたいと思いました。1994年、ドライアイの研究を開始した頃、涙液油層観察装置についての企業との共同開発プロジェクトのお話を木下教授からいただき、武 久葉子先生(現、高田葉子先生)と一緒に、涙液油層像の観察を開始したのが、この研究のスタートです」(横井則彦准教授)。

長い試行錯誤の日々が、その後の研究進展に結び付いた

 研究の中で一番大変だったことについて横井則彦先生は「1994年に現在のDR-1TM のプロトタイプを企業と共同開発し、ドライアイを初めとする多くの眼表面疾患の涙液油層像の観察を開始しましたが、当初、観察像の違いが何を意味しているのか、この装置をどのように臨床に生かせるのか全く分からず、悶々と一年以上を過ごしたように思います」と長いスランプの時期を振り返ります。

 小室 青客員講師も「通常は、涙液メニスカスで測定を行いますが、ドライアイでは、涙液メニスカスが低く、フルオロフォトメーターの測定領域より小さいため正確な測定ができなかったことと、角膜中 央で測定しようとすると上皮障害のためフルオレセインが取り込まれ正確な測定ができなかったことが、この研究の中で一番大変だったことです」と研究の苦労を話します。

 「しかし、その過程で、ドライアイと健常眼についての涙液油層のパターン分類が完成しました。その後、1996年に英国Oxford 大学(Anthony Bron 教授に師事)に留学し、マイボメトリーやメニスコメトリーを始めて、涙液油層像が涙液貯留量や液層の厚みを反映して変化するということに気づき、油層像の違いの意味が理解できるようになり、その後の研究の理論背景となりました」(横井則彦准教授)。悶々と過ごした試行錯誤の日々が、その後の研究の進展に大いに役立ったようです。

海外研究者との交流が大きなやりがいになる

 研究のやりがいについて横井則彦准教授は「涙液油層研究の開始から約15 年の歳月を経て、涙液油層の伸展動態解析が行えるようになり、2008 年の論文報告を機に、2009 年にシドニーで開催されたマイボーム腺に関するクローズドミーティングに日本からただ一人招待を受け、現在、ドライアイ研究に従事している大学院生の加藤弘明先生を連れて参加しました」つまり、世界の研究者との交流のチャンスを手にしたのです。

 「そこで、ブルガリアのソフィア大学生化学教室のGeorgi Georgiev 博士( 界面化学者)との運命的な出会いを果たし、現在までの5年に及ぶ彼との共同研究によって、現在の日本のドライアイ診断のパラダイムシフトと言える眼表面の層別診断法(Tear film oriented diagnosis: TFOD) の基本となる涙液層のブレイク分類を完成させることができました。彼とのディスカッションにおいて、DR-1TM で撮影した涙液油層の伸展動態の動画は、インターネットやEメールの発達にも助けられて,英語以外の共通の言語として働き、基礎と臨床、ブルガリアと日本の距離を縮めてくれました。Georgiev 博士との出会いとその後のやりとり、留学から続くBron 名誉教授とのメールや学会会場でのディスカッションは、しばしば人生感が変わるほどの感動に満ち、交流の歴史が積み重なるにつれて、心のつながりも強くなり、ますます価値のあるものになってきています」(横井則彦准教授)。

木下教授の貴重なアドバイスもあり、最適な測定法への道が拓ける

 小室 青客員講師は「分子量の大きいFITC dextran を使うことで、角膜内にフルオレセインが取り込まれることがなく、角膜中央での測定が可能となったことが、大きな研究成果になりました」と語り、このような結果が生まれることが研究のやりがいになると実感したそうです。木下 茂教授からは重要なヒントを頂いて、それが研究の質を向上させてくれたそうで「測定時に自由瞬目で測定していたが、瞬目回数を一定にして測定して比較してみるようにご指導頂いた」(小室青客員講師)。

 「木下 茂教授は、やる気を出してチャレンジする研究には、物心両面からいつも支えてくださいました。涙液油層観察を始めた当初、涙液油層像をどのように分類するかについて、悩んでいた時、アドバイスをくださると共に、教授自ら、たくさんの画像を一緒に分類してくださいました。教授がよく紹介される『続ければ本物になる、本物は続く』というフレーズは、20 年以上に及ぶ自分の涙液研究を支え続けてくれている言葉です」(横井則彦准教授)。

基礎と臨床の視点から涙液の深い謎を解き明かしたい…

 今後の研究の展望については「涙液油層の動態についての研究は、ドライアイの分類、病態別診断を医師からメディカルスタッフに移す鍵を握っていると考えています。そして、これが完成した時、ドライアイの理解がさらに進み、涙液の研究領域が大きく発展すると信じています。メディカルスタッフがOCT(光干渉断層計)で緑内障や網膜疾患の診断に参画できているように、涙液層の動態研究をさらに進めて、眼科医以外もドライアイの診断に興味を持って参画できるようにできればと思っています。また、現在の国際共同研究を通じて基礎と臨床の視点から涙液の深い謎を解き明かし、涙液疾患の病態を体系的に説明しうる考え方を構築して、それを分かりやすい形で世に伝えたいと思っています」(横井則彦准教授)。

 「スティーブンス・ジョンソン症候群の患者用に開発された輪部支持型ハードコンタクトレンズの涙液交換率を、従来からあるボストンレンズと比較検討することを進めていきたいと思います」(小室 青客員講師)。


左から 木下 茂教授、杉田二郎先生(名古屋大)横井則彦先生、Bron 教授、小室 青先生
Meibom-2000 Meeting, Boca Raton, Florida,U.S.A., April 27, 2000