
革新的網膜硝子体手術法の開発をスタートするきっかけについて、米田一仁助教は「従来20G(直径0.8mm)の創口で行っていた網膜硝子体手術は眼球全体に与える侵襲が大きかったのですが、27G(直径0.36mm)という極小切開のみによる硝子体手術を行う上で必要な器具を開発し、応用していくことが網膜硝子体手術の次のステップとして必要 と感じたためです」と語ります。
小森秀樹助教は「黄斑上膜は、硝子体手術で膜を完全に除去しても変視が改善しにくいために術後満足度が低いことが知られており、これを何とかしたいと常々思っていました。黄斑上膜手術の術後成績を調べていた際、中心窩外に存在する黄斑上膜を中心窩方向に膜剥離した症 例は変視がよく改善していることに気が付き、黄斑上膜の偏心度を解析し、変視改善が得られやすい手術法を考案しようと思いました」と話します。
小嶋健太郎助教は「論文が発表される前から海外学会で、この手技を聞いて興味を持ち、大島佑介先生( 現在本学客員講師) にも相談して2013年から2014年にかけて2 回エジプトを訪問してこの手技を学んで来ました。その折に、この手技についての基礎的な裏付けが未だ不足していることから、動物実験を依頼され共同研究もすることになりました」と研究スタート当時を振り返ります。
それぞれの研究者の役割は、小森秀樹助教が「黄斑上膜の偏心度解析と膜剥離方向の臨床研究を行っています。黄斑上膜はcommon disease であるにもかかわらず、これまで膜の範囲や分布による手術成績の検討は行われていませんでした。本研究は、黄斑上膜の偏心度に着
目し、OCT 画像の分析結果から術後に最も変視が改善しやすく、侵襲の少ない膜剥離法を開発するものです。黄斑上膜の偏心度を解析するためには、黄斑上膜の重心を求める必要があり、OCT の開発エンジニアと画像データの難解な物理的解析を行ったことが苦労した作業として思い出されます」。
米田一仁助教は「27G(直径0.36mm)の創口のみで網膜硝子体手術を行うことによる極低侵襲網膜硝子体手術器具の開発および改良を担当しています。機械の開発時に、海外のメーカーを動かす必要があるときに、如何に交渉して如何に実現していくかという点で苦労しました。また、具体的な手術術式としては、器具の脆弱性や効率の悪化をどのようにして克服していくかという点に難渋したことを記憶しています」と語ります。