12 Important Works12研究物語

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革新的網膜硝子体手術法の開発

「眼球への負担を最小限に!」
0.36mm の極小切開で低侵襲な網膜硝子体手術を実現

研究担当者

  • 小森 秀樹

    助教

  • 米田 一仁

    助教

  • 小嶋 健太郎

    助教

ピアスの穴よりも小さな創口からの手術を目指す

 革新的網膜硝子体手術法の開発をスタートするきっかけについて、米田一仁助教は「従来20G(直径0.8mm)の創口で行っていた網膜硝子体手術は眼球全体に与える侵襲が大きかったのですが、27G(直径0.36mm)という極小切開のみによる硝子体手術を行う上で必要な器具を開発し、応用していくことが網膜硝子体手術の次のステップとして必要 と感じたためです」と語ります。

 小森秀樹助教は「黄斑上膜は、硝子体手術で膜を完全に除去しても変視が改善しにくいために術後満足度が低いことが知られており、これを何とかしたいと常々思っていました。黄斑上膜手術の術後成績を調べていた際、中心窩外に存在する黄斑上膜を中心窩方向に膜剥離した症 例は変視がよく改善していることに気が付き、黄斑上膜の偏心度を解析し、変視改善が得られやすい手術法を考案しようと思いました」と話します。

 小嶋健太郎助教は「論文が発表される前から海外学会で、この手技を聞いて興味を持ち、大島佑介先生( 現在本学客員講師) にも相談して2013年から2014年にかけて2 回エジプトを訪問してこの手技を学んで来ました。その折に、この手技についての基礎的な裏付けが未だ不足していることから、動物実験を依頼され共同研究もすることになりました」と研究スタート当時を振り返ります。

 それぞれの研究者の役割は、小森秀樹助教が「黄斑上膜の偏心度解析と膜剥離方向の臨床研究を行っています。黄斑上膜はcommon disease であるにもかかわらず、これまで膜の範囲や分布による手術成績の検討は行われていませんでした。本研究は、黄斑上膜の偏心度に着 目し、OCT 画像の分析結果から術後に最も変視が改善しやすく、侵襲の少ない膜剥離法を開発するものです。黄斑上膜の偏心度を解析するためには、黄斑上膜の重心を求める必要があり、OCT の開発エンジニアと画像データの難解な物理的解析を行ったことが苦労した作業として思い出されます」。

 米田一仁助教は「27G(直径0.36mm)の創口のみで網膜硝子体手術を行うことによる極低侵襲網膜硝子体手術器具の開発および改良を担当しています。機械の開発時に、海外のメーカーを動かす必要があるときに、如何に交渉して如何に実現していくかという点で苦労しました。また、具体的な手術術式としては、器具の脆弱性や効率の悪化をどのようにして克服していくかという点に難渋したことを記憶しています」と語ります。

 

危険覚悟でエジプトへ。その努力が実り共同研究を立ち上げる

 小嶋健太郎助教は「私は上脈絡膜腔バックリングの基礎研究と臨床研究に携わっています。上脈絡膜バックリング手術とは、強膜と脈絡膜の間の上脈絡膜腔に粘弾性物質を注入することにより脈絡膜と網膜のみを内陥させる新しい手技で、2013 年にエジプトのEl Rayes 教授と大島佑介先生( 現在本学客員講師)により報告されたものです。この手技の対象となる疾患は現時点では裂孔原性網膜剥離と病的近視に伴う後部ぶどう腫に関連して生じる黄斑円孔網膜剥離や網膜分離症ですが、ドラッグデリバリーの観点からも注目されています」。

 研究を進めるためにエジプトに飛んで手技を学ぶ必要があり「エジプトの治安が不安定な時期であり、渡航自体が不安ではありました。また現時点では一般に確立された手技ではないので安全性や効果について様々な意見があり、否定的なご意見を頂く場面もありました。しかし、何よりこの研究を通して海外の多くの先生方と知り合い、日常の診療を含めた様々な情報や意見を交換できるようになったことは人生において糧になると思います。また国内も含め新しいことにチャレンジすることに対して好意的な反応もあり勇気づけられました」という小嶋健太郎助教らは、エジプトに向かい手技を学び、共同研究化にも成功しました。

 研究を進めていくうちに、米田一仁助教は「近年25G(直径0.5mm)まで小切開化が進んできていたため、27G になったからと言って、それほどの進歩は見込めないのではないかと懸念していましたが、実際に臨床応用してみると、非常に高効率で安全性の高い手術を患者さんに提供できることが手術中および術後のデータから明らかになりました。また、世界に先駆けて日本で臨床応用を行い、数多くの患者さんに世界で最速のペースで還元できたことが、この研究の大きな成果だと思います。臨床の経験上27G 以上の小切開化は不要であることがわかっており、この世界最小サイズの網膜硝子体手術の機械や使用器具を開発・改良することを目指します。このことによって、世界中の術者が安全に効率よく27G 硝子体手術を行うことができ、その先には、より多くの患者さんへの極低侵襲網膜硝子体手術の提供を可能にすることができると考えています。木下先生からは、いつも広い視点や異なった視点からのアドバイスをいただいたり、他分野とのコラボレーションについて多くのアドバイスをいただきました」。

既存の考えに囚われず自分が面白いと感じる研究を続けなさい

 小森秀樹助教もこの研究に関する大きな手応えを感じたそうで「画像解析により最も効果的と確信した膜剥離方法で、実際に硝子体手術を行い、その結果変視が大幅に改善され、患者さんと喜びを共有するとき、この研究を続けて良かったと実感します。また、学会発表の際に多くの先生から、アプローチが斬新で興味深いと声をかけて頂いたときも喜びを感じます。木下先生には、黄斑上膜の偏心度解析に行き詰っていた際に、OCT 開発技術者に相談し共同で研究を進めるよう指示して頂き、研究を前進させることができました。また常に、自分が面白いと感 じる独創性の高い研究を継続していくことの重要さを教えて頂きました。今後の展望としては、黄斑上膜の偏心度を自動解析して最適な膜剥離方向をナビゲートする3次元画像解析プログラムを様々なOCTに搭載させ、多くの網膜硝子体術者がその情報を参考にして硝子体手術を行うようになるのが、本研究の最終的な目標、そして夢です」と語ります。

 小嶋健太郎助教は「現在大学にて上脈絡膜腔内での種々の粘弾性物質の挙動や影響について評価するための動物実験を畑中先生、米田先生、篠宮さんと共同で行っています。またより安全な手技を確立するために現在企業にご協力頂いて共同で新たな手術器具の開発に取り組んでいます。最近では緑内障分野においても新しい緑内障手術デバイスの房水流出先として上脈絡膜腔がターゲットとなっており、上脈絡膜腔は眼科手術において新たなフロンティアとなる可能性を秘めています。今後、様々な眼疾患に対する新しいアプローチとなる可能性も含めて研究を進めていきます。木下教授には、うまく行かない時もとにかくポジティ ブな指導をしていただいております。指導の中では常に未だ解決されていない問題に目を向け、既存の考えに囚われずに考え、また粘り強くやり続けることについて繰り返し仰っていたのが印象に残っています」。