目は見えることにつながる重要な臓器ですが、全身から見ると非常に小さな部位で、「誤解」を恐れずに言うと、極めて狭い分野です。その小さな臓器のなかにも、角膜、水晶体、硝子体、網膜、黄斑部など、部位が細かく分かれており、ドライアイ、緑内障、白内障、網膜疾患など疾患も多岐にわたるため、治療も極めてスペシフィック(特定的)なのです。
当然、我々眼科医には、各疾患領域における高い専門性が求められますが、その一方で、これまで培ってきた知識、経験、技術を眼科のみならず、全身の医療につなげる可能性をも視野に入れることが重要だと考えます。
私の専門は角膜ですが、その治療技術を高め、専門知識を深めていくだけではなく、角膜を「『目』を診ていく最初の入り口」と捉え、体全体に及ぼす影響から、全身につながる役割や機能までをも意識する必要があると考えています。
これまで、日本は医療システムを含めて、アメリカから相当のことを学んできました。その良し悪しはさておき、医療技術の「縦割り」の要素が多く入っています。技術や専門性のとんがり(突出)は「縦割り」で生まれてきますが、その弊害も理解しておかねばなりません。例えばあるメーカーが、これまでにない画期的な製品を開発するプロジェクトを立ち上げるとします。もし、特定の分野に精通した専門家だけが集まって、製品開発を進めたら、どうなるでしょうか。一歩、二歩の前進はあるかもしれませんが、世界をあっと言わせる革新的な製品の創出は難しいでしょう。業種や文化的背景が異なる人、今まで面白い実績を残した人が参画することで、多様性が生まれ、新しいアイデアや進歩につながると思います。つまり、縦だけを追求するだけでなく、横への広がりも大切にする、両方の視点を持つことが重要なのです。
私の教室には、私が専門とする角膜に興味や関心が高い学生が集まってくる傾向が否めませんが、他の専門に関心がある学生も歓迎しています。一つの分野に特化していくと、短期的には良いかもしれませんが、中長期的には上手くいかなくなるリスクがあるのです。常に自分たちの専門性のカウンターパートを持っておくこと、そうすることで、周囲の環境や、自分たちが取り組んでいることの位置づけが明確になるのです。他の分野にも関心を持ち、それぞれの得意分野に幅を持たせると、10 年後には新たな展開が見えてくるでしょう。
医療・医薬品業界がある意味でグローバル化していくなかで、患者さんの治療ニーズを捉えるためには、様々な視点が必要です。例えば、この国の人はどういう考えで対応をしているのか、ヨーロッパのなかでもドイツとフランス、イタリアでは、価値観や行動がどう違うのか、アジアではどうか、中国ではどうか…ということ。さらに、社会情勢、文化的背景、経済環境、各国の規制など、全てが絡んで診療が成立していることも、理解しなければなりません。各医療現場の情報収集で知識を蓄えることに加えて、大切なのは、治療ニーズを捉える「感性」。つまり治療ニーズを感じ取る力を養っていくことではないでしょうか。
人間の「感性」には、新しいものを創出し、進化させる大きな可能性があると思っています。しかしながら、その「感性」は、社会で揉まれていくなかで、徐々に鈍くなっていきます。「何が求められているのか」「どういうモノだったら買ってもらえるのか」「何が足りないのか」。こういったことを、「感性」で捉えておく必要があるのです。
治らない病気をどう治療するか。より安全で簡便な治療は何か。専門性を追求するとともに、横のつながりや全体感を意識し、皆さんが既に持っている「感性」を強く感じることがとても大切なのです。